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カテゴリ:Corporation( 2 )

取締役会と株主総会の関係とDuty of Good Faith

昨日(5月26日)は月曜日でしたが、アメリカではMemorial Dayという祝日でお休みでした。何のMemorialなのかはよくわからないのですが、そのおかげで司法試験の予備校(Bar/Bri)もお休みで、この週末は3連休ということで、一息ついていました。

ところで、先週の後半のBar/Briの授業内容はCorporationでした。Corporationといっても、NY州の司法試験(NY Bar)のための授業なので、扱っているのはアメリカで主に用いられるデラウェア会社法ではなくNY会社法の話で、しかも内容はものすごく初歩的な話が多かったのですが、NY Barの勉強の気分転換に、久しぶりに会社法の話を聞いて、つらつらと考えたり、文献を読み返したりしていたことをメモ書き程度に書いておきたいと思います。以下の話はほとんどNY Barには関係のない話なので、念のため。

1.取締役会と株主総会の関係

日本でもアメリカでも、会社法の基本として、所有と経営の分離とか、会社の運営をするのは取締役会であるということが強調されますが、Bar/Briの授業でもお決まりのようにこの点は強調されていました。ただ、日本とアメリカでは取締役会と株主総会の関係が異なるというか、かなり以前に友人のももんがさんもブログに書かれているとおり、ざっくり言ってしまえば、アメリカの方が取締役会の権限が強いように思われます。

このような、取締役会と株主総会との間の権限分配に関する話で、その話題について職場の上司と話をしたことなどもあって、以前から気になっていたのが、ポイズンピルの採用や消却に関して株主総会の承認を義務づけるようにbylaw(付属定款)を変更すべきという旨の株主提案でした。デラウェア会社法との関係では、そのようなbylawの変更は、デラウェア会社法141条(a)で認められた取締役の権限を侵害するものという見解が実務的には有力なようですが(←反対説もあり)、にもかかわらず、そのような提案は相変わらず毎年なされ、また、採用されているケースもあるようです。

このようなbylaw変更の株主提案のうち、HarvardのBebchuk教授によるCA社への提案の委任状勧誘状への記載に関して、2006年6月にデラウェア州衡平裁判所の判決(Bebchuk v. CA, Inc. No.2145-N)が出ています。もっとも、判決は、手続法上の理由で訴訟を却下しており、このようなbylaw変更がデラウェア会社法に反するものか否かについての判断はなされていないままです。また、Bebchuk教授のbylaw変更の提案内容は、①ポイズンピルの導入は取締役会の全会一致で行う、②ポイズンピルの有効期限は1年以内とする、という内容で、ポイズンピルの採用や消却について株主総会の承認を義務づけるようなbylawと比較すれば、取締役会の権限を直接制限するものではないため、実際に司法判断が下された場合に、デラウェア会社法に反するものと解釈される可能性も低いといえます(同判決について、日本語で詳しく述べたものとして、星明男「米国におけるポイズン・ピルをめぐる新たな動き」商事法務1782号32頁参照。)。

いずれにしても、日本の買収防衛策をめぐる議論は、もともとは企業価値研究会の買収防衛策指針などにおいても、アメリカの議論を大きく参考にしたところがあったわけですが、取締役会の権限を制約することの適法性が問題になるアメリカのポイズンピルをめぐる議論状況と、ブルドックソース事件判決を受けて株主総会の特別決議が必要なのかどうかという点などが問題になっている日本の買収防衛策の議論状況は、日米における株主総会と取締役会の関係性の違いゆえに、大きく食い違ってきているように思います。

また、買収防衛策に関しては、商事法務1807号における岩原教授らの日本の事前買収防衛策についての勧告的決議をめぐる議論で、アメリカの議論状況として、同じくBebchuk教授の論文“The Case for Increasing Shareholder Power”が言及されています。しかし、同論文でのBebchuk教授の議論は、株主に基本定款(certificate of incorporation)変更のためのinitiativeを与えようという立法論の話なのに対して、日本では、株主のinitiativeによる定款変更(=株主提案で定款変更を議題として提案すること)はそもそも可能です。また、事前買収防衛策の導入に関しては、単なる勧告的決議に法的効力がないとしても、併せて定款変更を行えば事前買収防衛策導入の株主総会決議に単なる勧告的決議以上の意味を持たせることもできます。

取締役会と株主総会の権限分配の観点からすれば、アメリカ(の株主からのコントロールを重視する立場の論者)から見れば、日本は株主総会の権限が大きく、取締役会に対するコントロールが十分に効いてよいではないか、ということにもなりそうなのですが、現状としてあまりそのような印象はありません。そのあたりは、ヘッジファンド等のアクティビストが多数活躍(跋扈?)するアメリカと日本の株主の性格の違い(アクティビスト自身の数のみならず、アクティビストの株主提案等が他の一般株主から支持される可能性も含めて)によるところが大きいように思われます。もっとも、最近は、日本でもアクティビスト対策ということが強く意識されるようになってきているようなので(アメリカにいるため、今年の日本の株主総会へ向けての実務の動向などは正直なところ全然フォローできていないですが)、今後はそのような状況も変わってくるのかもしれません。

2.Duty of good faith

これもアメリカの会社法に関する基本的な点の1つで、Bar/Briの授業でも触れられていたことですが、取締役は会社に対してfiduciary dutyを負っており、その内容はduty of careとduty of loyaltyに大別されるというのが、アメリカの会社法における取締役の義務についての基本的な説明です。

この点、デラウェアでは、これらに加えて、duty of good faithという新たな義務の類型を認めるかのような最高裁判決(In re The Walt Disney Company Derivative Litigation, 906 A.2d.27)が一昨年の6月に出されました。同判決は、意図的な義務の怠慢や意識的な責任の軽視は、誠実に行動すべき(to act in good faith)というfiduciary dutyの違反に当たり、デラウェア会社法102条(b)(7)(=定款による取締役の責任の免責を認める規定)によっても免責されないとしました。同判決を受けて、かかるduty of good faithについて、duty of careとduty of loyaltyとどのような関係に立つのかというのが議論の対象となったのですが、これについて、NYUでの秋学期の会社法の授業で使用していたケースブック(Allen, Kraakman & Subramanian “Commentaries and Cases on the Law of Business Organization”)では、以下のとおり整理できるのではないかと説明されていました。

まず、単なる過失(negligence)によるduty of care違反については、business judgment ruleが適用されて取締役の責任は問われません。次に、重過失(gross negligence)によるduty of care違反については、business judgment ruleによっても取締役は責任を問われることになりますが、ただ、デラウェア会社法102条(b)(7)による免責が定款において定められていた場合には、取締役の責任は免責されることになります。しかしながら、(取締役と会社との間に利益相反がある)duty of loyalty違反や、これに加えて(利益相反がなくとも)Disney判決で指摘されたduty of good faith違反の場合には、デラウェア会社法102条(7)(b)によっても責任が免責されないことになるとの整理です。

そもそも、デラウェア会社法102条(b)(7)の文言は、具体的には、(i)会社や株主に対するduty of loyalty違反の場合や、(ii)誠実でない(=not in good faith)意図的な不正行為や故意の法令違反を含む行為や不作為などについては免責を認めないという内容なのですが、これまでの理解としては、(i)のduty of loyalty違反は狭い経済的な意味の利益相反がある場合を念頭において起草されたと理解され、(ii)が広い意味のduty of loyalty違反までをカバーするものと考えられていたようです。この点、上記のケースブックは、Disney判決を、duty of good faith違反について、広い意味でのduty of loyalty違反のみならず、(広い意味でも利益相反がなく)duty of loyalty違反には当たらないけれども、gross negligenceによるduty of care違反よりもさらに程度のひどい義務違反も含むものとして位置づけたと説明するわけです。

ところが、この点に関連して、一昨年の11月、さらに、Stone v. Ritter, 911 A 2d 27というデラウェア州最高裁の判決が出されました。上記のケースブックではこのStone判決については言及されておらず、講義でもカバーされなかったのですが、このStone判決は、誠実に行動すること(the requirement to act in good faith)は、根本的なduty of loyaltyに従属する要素/条件であるとして、duty of good faith違反はduty of loyalty違反に当たるとしました。つまり、このStone判決の考え方によれば、利益相反がないようなケースでデラウェア会社法102条(b)(7)で免責され得ないようなduty of good faith違反にあたるものは、単にduty of care違反の程度のひどいものというよりは、そもそもduty of loyalty違反に該当する(=duty of loyaltyは必ずしも利益相反があるような場合に限られない)という整理になるようです(これらの判決について、日本語で詳しく述べたものとして、「デラウエアにおける取締役の信認義務の変化」商事法務1797号42頁参照。)。

(追記 6月1日)
その後、おおすぎBlogで、日経に「株主総会の実態が、買収者よりも経営者に有利な戦場であるという認識から、有事の株主総会が免罪符となることへの警鐘を鳴らす」記事が載っていたなどという話を読んで(なお、この記事についてはisologueでさらに詳細に触れられていますが、私自身はこの記事自体は読んでません。)、結局、日本では、法律上はアメリカ(デラウェア)よりも株主総会の権限が強く株主によるコントロールが効きうるようになっているけれども、それを理由に買収防衛策について株主総会決議があればよいとしてしまうと、却ってアメリカよりも買収防衛などの局面において取締役などの責任が免責されるのを容易にする可能性が高いということか、でも…などと考えていたのですが、そんなところで、アデランスの取締役選任決議否決のニュースを聞いて驚きました。アデランスほど外国人株主の株式保有割合が高い会社はそれほど多くはないと思うので、まだこれで日本の株主総会の動向が変わったなどということはいえないかとは思いますが、この後の株主総会シーズンにおける動向については引き続き注目したいと思います。…というか、さすがにそんなことに注目している余裕はないかもしれないので、NY Barの試験が終わるころまでには企業価値研究会の新たな報告書も出ていると思いますし、試験が終わって気が向いたら、またゆっくり考えてみたいと思います。
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by fbrat | 2008-05-28 09:21 | Corporation

Agency Costs of Venture Capitalist Control in Startups

秋学期は、会社法関連の科目としては、怪しい中国かぶれvisiting professorによる会社法の授業と、デラウェア最高裁のJack Jacobs判事によるM&Aの授業を履修していました。後者は著名な裁判官による判例の解説を中心にした授業ということで、なかなか興味深かったですが、前者はリンク先のpublicationの欄を見ていただければ分かるとおり、会社法というよりは中国法の専門家としてアメリカでは知られている学者のようで(コロンビアのMilhaupt教授などもアメリカ国内では会社法の専門家というよりは日本法の専門家として有名なようですが、その中国版みたいなもの?)、実際の授業内容も会社法を説明する前提となるAgencyやPartnershipに時間をかけすぎて肝心のM&Aの部分が駆け足になるなど拙い内容で、かなり不満でした。NYUの会社法の教授陣は、William Allenなど著名な教授もいるのですが、いかんせん数が不十分なのか、毎年何人かのvisiting professorが来ているようです。visitingでもまともな人なら全く問題ないのですが、運悪くダメな授業を履修することとなってしまったため(秋学期の会社法全般に関する授業では、自分の場合はこの授業しか履修可能なものがなかった)、会社法に関しては、学説等の議論について、もう少しまともな人間の話も聞いてみたいという気持ちが残りました。

そこで、春学期にとろうかどうか迷っているのが、同じくvisiting professorなのですが、中国かぶれに比べるとかなりまともそうな、U.C.BerkeleyからやってくるJesse Fried教授のCorporate Governanceのゼミ。とりあえず論文でも読んでみようかと思い、ベンチャーにも興味があったこともあって、同教授の論文の中から“Agency Costs of Venture Capitalist Control in Startups”(共著)を読んでみたのですが、これがなかなか興味深かったです。

論文の内容は、VCによる優先株を使った投資の問題点に関するもので、世界の他の地域では普通株による投資も多いのに、アメリカではなぜVCによる投資が優先株で、かつboardのcontrolも握る形で行われることが多いのかという話。米国ではVCによる投資は優先株で行われるのが一般的で、この点isologueなどで、なぜ日本では優先株を使った投資が行われる割合が少ないのかという議論がなされているのは見たことがあったのですが、この論文は、いわばその全く逆の話(世界の他の地域は普通株が多いのになぜアメリカは優先株?)でした。

同論文においては、アメリカでVCによる投資が優先株かつcontrolも握るという形で行われる理由がいくつか挙げられているのですが、大きな理由としては、①ベンチャー企業では従業員等に普通株や普通株のストックオプションで報酬を与えているところ、VCが普通株で投資すると、その投資の際の価格が普通株の時価とみなされ、従業員に対する課税が重くなってしまうが、優先株だとそのような心配がないこと(アメリカはcapital gainに対する税率が15%で、最高35%のordinary incomeより大幅に低い。株式等による報酬はまず受領した時点の時価で課税され、これはordinary incomeとなり、あとは売却時点でのcapital gain課税になる)、及び、②アメリカでよく利用されるデラウェア会社法の判例によれば、普通株主がboardをcontrolしている場合に、boardの義務として、普通株主の利益と優先株主の利益が相反するときは普通株主の利益を優先させることが許されるとされているため(Equity-Linked Partners, L.P. v. Adams (705 A.2d.1040(Del. Ch. 1997)等)、そのような事態を避けるために優先株主であるVCがcontrolを握る必要があること、が挙げられています。

米国において優先株による投資が行われる最も大きな理由が上記のとおり税制なのだとすれば、日本においては、ベンチャー企業の従業員等に対する報酬として現物株というのはあまりなく(という理解で正しい?)、ストックオプションが中心で、日本においては適格であろうとなかろうとストックオプションについては付与時には課税されないので、この観点からは、日本において優先株による投資を行う必要性はアメリカほどは高くないということがいえるのではないかと思われます。

同論文は、これに続けて、このようなVCによる優先株かつcontrolも握るという形の投資は、優先株にはliquidation preferenceがあるため、優先株主がcontrolを握っているベンチャー企業は、独立して事業を継続した方が株主全体のリターンを高める可能性がある場合でも、清算ないし売却といった選択をしやすくなるというAgency Costを生じるという問題点を、数値を使った簡略化した設例を用いて指摘します。そのうえで、このようなAgency Costを取り除くためには、このような形の投資をしなければならない理由となっている税制と会社法を変える必要があるのではないか、という問題提起で結ばれていました。いろいろ議論がありうるところだとは思いますが、私自身、日本にいる間は、アメリカではベンチャー投資は優先株が中心であるという事実から、日本でももっと優先株が活用されるといいのに、という程度の認識しかなかったので、なかなか新鮮な議論でした。

(追記 1月13日)
上記のゼミはCancel(開講されないこと)になってしまったようです。残念。
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by fbrat | 2008-01-07 19:31 | Corporation